民法 債権 (H27-33)
Aは、自己所有の甲建物をBに贈与する旨を約した(以下、「本件贈与」という)。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 本件贈与が口頭によるものであった場合、贈与契約は諾成契約であるから契約は成立するが、書面によらない贈与につき贈与者はいつでも撤回することができるため、甲がBに引き渡されて所有権移転登記手続が終了した後であっても、Aは本件贈与を撤回することができる。
2 本件贈与が書面によるものであるというためには、Aの贈与意思の確保を図るため、AB間において贈与契約書が作成され、作成日付、目的物、移転登記手続の期日および当事者の署名押印がされていなければならない。
3 本件贈与につき書面が作成され、その書面でAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、遺言が撤回自由であることに準じて、Aはいつでも本件贈与を撤回することができる。
4 本件贈与につき書面が作成され、その書面でBがAの老後の扶養を行うことが約された場合、BがAの扶養をしないときであっても、甲の引渡しおよび所有権移転登記手続が終了していれば、Aは本件贈与を解除することができない。
5 本件贈与につき書面が作成され、その書面で、BがAの老後の扶養を行えばAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、Bが上記の負担を全部またはこれに類する程度まで履行したときであっても、特段の事情がない限り、Aは本件贈与を撤回することができる。
解答 3
贈与に関する基本的な問題なので是非とも正解したいところです。
テキストP622~
肢1 誤
(書面によらない贈与の撤回)
第550条
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
過去問(H17-28-3)の類似問題です。
贈与は諾成契約であるため、口約束などによっても有効に成立しますが、贈与が片務契約・無償契約であることからすると、ついうっかり軽率に約束をしてしまった贈与者に履行を強制するのが酷な場合もあります。
そのため、贈与者の贈与意思を客観的に認識できる書面が作成されていない場合の贈与については各当事者が撤回することができ、目的物の引渡を拒むことができるとしたのです。
ただし、履行の終わった部分については贈与者の贈与意思を客観的に認識できるのでその部分については撤回することはできないのです。
履行の終わった部分というのは、例えば、不動産なら引渡しや登記をした場合、動産なら引渡しをした場合であり、これらの場合は、撤回できなくなります。
本肢につき、甲がBに引き渡されて所有権移転登記手続が終了した後であれば、履行が終わったといえるので、Aは本件贈与を撤回することはできないのです。
肢2 誤
550条の反対解釈からすれば、書面による贈与については履行の有無に関わらず原則として撤回することができないことになります。この書面というのは、贈与者の贈与意思を客観的に認識できるものであればよいので、正式な贈与契約書である必要はありません。
また、書面から受贈者の氏名や承諾の意思表示が明確ではなくても、他の事実や証拠から贈与する意思が明らかであれば、書面による贈与となります
肢3 正
(死因贈与)
第554条
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
死因贈与とは、贈与者が死亡したことを条件とする贈与をいいます。
遺言による贈与である遺贈と共通しているので、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されるのです。
遺言者が自己の財産をどのように処分するかは自由です。遺言するのも自由であり、撤回するのも自由なのです。遺言者の最終的な意思が尊重されるのです。
したがって、遺言が撤回自由であることに準じて、Aはいつでも本件贈与を撤回することができるのです。
肢4 誤
(贈与者の担保責任)
(負担付贈与)
第553条
負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。
例えば、建物を贈与する代わりに、受贈者にその建物に付いている抵当権で担保されている被担保債務(1000万円)を弁済するという負担付贈与契約を結んだ場合が負担付贈与です。
本来、贈与者の給付と受贈者の負担は、売買のように対価的関係はありません。
しかし、実質的には、負担の範囲内で両者は対価的関係にあります。
そのため、負担の範囲内においては、双務契約の規定が準用されるのです。具体的には、危険負担や同時履行の抗弁権や解除の規定が準用されます。例えば、上記の例で受贈者が被担保債務を弁済しない場合は、贈与者は贈与契約を解除することができるのです。
肢5 誤
肢3の通り、遺言による贈与である遺贈と共通しているので、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されるのです。
もっとも、遺贈が一方的な単独行為であるのに対して、死因贈与は当事者間による契約である点が異なります。
贈与としての性質も有しているため、履行の終わった部分については贈与者の贈与意思を客観的に認識できるのでその部分については撤回することはできないのです。
本件贈与につき書面が作成され、その書面で、BがAの老後の扶養を行えばAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、負担付の死因贈与となりますが、Bが上記の負担を全部またはこれに類する程度まで履行したときであれば、贈与契約としての性質上、撤回を許すことが公平かどうかを考えれば、特段の事情がない限り、Aは本件贈与を撤回することができないのです。
以下判例ですが、少し細かいところなので、判例を暗記するのではなく、死因贈与は、贈与としての性質と遺贈としての性質の両方を有し、具体的な事情において、どちらの側面が優先されるのが公平かどうかを理解するようにしましょう。
最判昭和57年4月30日
「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部またはこれに類する程度の履行をした場合には、右契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部または一部を取消す(改正後は撤回の意味)ことがやむをえないと認められる特段の事情がないかぎり、民法1022条、1023条の各規定は準用されない。」