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民法 債権 (H27-34)


A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢かれて死亡した。CがAに対して負うべき損害賠償額(以下、「本件損害賠償額」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに責任能力があることが必要であるので、本件ではAの過失を斟酌することはできない。

2 本件損害賠償額を定めるにあたって、A自身の過失を考慮して過失相殺するには、Aに事理弁識能力があることは必要でなく、それゆえ、本件ではAの過失を斟酌することができる。

3 本件損害賠償額を定めるにあたって、BとAとは親子関係にあるが、BとAとは別人格なので、Bが目を離した点についてのBの過失を斟酌することはできない。

4 本件損害賠償額を定めるにあたって、Aが罹患していた疾患も一因となって死亡した場合、疾患は過失とはいえないので、当該疾患の態様、程度のいかんにかかわらずAの疾患を斟酌することはできない。

5 本件損害賠償額を定めるにあたって、Aの死亡によって親が支出を免れた養育費をAの逸失利益から控除することはできない。



解答 5


主に過失相殺に関連する基本的な問題ですから是非とも正解したいところです。


テキストP722~


肢1 誤  肢2 誤  肢3  誤  肢4 誤

まず、本問の事例のような被害者である3歳児Aに過失があったといえるのでしょうか。被害者側の過失相殺における「過失」があったといえるためには、被害者に事故が起きないように回避できる注意力つまり事理弁識能力が必要です。よって、肢2は誤りです。

しかし、加害者側の「過失」に必要な責任能力までは必要ありません。

なお、責任能力とは、加害行為の法律上の責任を弁職するに足りる知能をいい、不法行為の成立要件の一つです(712条)。

責任能力がある年齢というのは、個人の発育状況にもよりますが、一般には11歳から12歳程度と言われています。

よって、肢1は誤りです。

以上より、3歳児Aには通常事理弁識能力があるとはいえないので、3歳児Aが急に道路へ飛び出したことに過失があったとはいえないでしょう。だからといって加害者に全責任を負わせるべきでしょうか。是非善悪の判断が明確につかない3歳児Aを放置していた親Bに過失があったといえないでしょうか。

両親など被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある場合は、公平の観点から被害者側の過失として、過失相殺することができるのです。つまり、被害者の過失の中に被害者のみならず両親などの被害者と財布が共通する者の過失まで含まれるのです。

ですから、A自体には過失がなくてもBがAと身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある場合は、その過失をもって過失相殺できるのです。よって、肢3は誤りです。

そして、この過失相殺における過失には、722条2項の類推適用により被害者の疾患なども含まれる場合もあります。

例えば、仮に本問でAが持病で心臓に疾患があったために、普通なら死亡するはずのない事故であったにもかかわらず死亡してしまった場合、死亡について全額損害賠償を負わせるのは公平ではありません。

Aの心臓病が死亡に寄与したといえるので、その点に関しては、過失相殺を類推適用して被害者側の過失として損害額の減額が斟酌される場合もあるのです。

よって、肢4は誤りです。

肢5 正

子供が交通事故で死亡すると、その後の成人までの養育費は不要になります。そこで従来は逸失利益(本来得られるべきであるにもかかわらず、不法行為が生じたことによって得られなくなった利益)を算定するときに、養育費を差し引くという考え方がありました。

しかし、以下の昭和53年の最高裁による判例が出て以降は、養育費は差し引かないという方法が一般的になっています。子供が生きていれば養育費は差し引かれないので、より重大な損害である死亡した場合の方が損害賠償額が減ることになり、公平とはいえないということが一つ理由です。また、養育費はそもそも親の財産から支出されるものであって、子供の逸失利益としての損害賠償額とは別のものと考えられるからです。

最判昭和53年10月20日

「交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については、幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合においても、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではない。」




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