憲法 統治 (H29-4)
次の記述は、ため池の堤とう(堤塘)の使用規制を行う条例により「ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は、ため池の破損、決かい等に因る災害を未然に防止するため、その財産権の行使を殆んど全面的に禁止される」ことになった事件についての最高裁判所判決に関するものである。判決の論旨として妥当でないものはどれか。
1 社会生活上のやむを得ない必要のゆえに、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は何人も、条例による制約を受忍する責務を負うというべきである。
2 ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていない。
3 憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にある行為を条例をもって禁止、処罰しても憲法および法律に抵触またはこれを逸脱するものとはいえない。
4 事柄によっては、国において法律で一律に定めることが困難または不適当なことがあり、その地方公共団体ごとに条例で定めることが容易かつ適切である。
5 憲法29条2項は、財産権の内容を条例で定めることを禁じているが、その行使については条例で規制しても許される。
解答 5
肢1~3までは奈良県ため池条例事件からの出題です。
肢4も判例です。肢5は条文問題です。いずれもテキスト295~で記載されているものなので是非とも正解したい問題です。
肢4 正
『憲法が地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によって差別を生じることは当然予期されることであるから、かかる差別は憲法自ら容認するところであって、条例の取り扱いに地域的な差があったとしても違憲ではない。』
肢5 誤
「憲法29条2項
財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」
この法律には条例が含まれます。条例は民主的手続きで制定されるものだからです。
よって、「憲法29条2項は、財産権の内容を条例で定めることを禁じている」どころか条例で制定できるのです。
肢1~3は以下の【判決の要旨】の通りです。
【事実の概要】
『Xらが、ため池の提とうで耕作をしていたところ、奈良県ため池に関する条例が制定され、ため池の提とうでの耕作が禁止された。その後もXらは耕作を続けたため、同条例違反により罰金刑を受け、かかる処分を不服としてXらは、同条例は憲法29条に違反するとして争った事件』
【判決の要旨】
『ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者の財産権の行使を殆んど全面的に禁止されることになるが、それは災害を未然に防止するという社会生活上の已むを得ない必要から来ることであつて、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は何人も、公共の福祉のため、当然これを受忍しなければならない責務を負うというべきである。(肢1)
すなわち、ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないものであつて(肢2)、憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にあるものというべく、従つて、これらの行為を条例をもつて禁止、処罰しても憲法および法律に牴触またはこれを逸脱するものとはいえないし(肢3)、また右条項に規定するような事項を、既に規定していると認むべき法令は存在していないのであるから、これを条例で定めたからといつて、違憲または違法の点は認められない。』