行政法 行政不服審査法 (H18-15)
以下の記述のうち誤っているものはいくつあるか。
1従来、執行停止の要件としては、「重大な損害」が必要とされていたが、平成16年の法改正により、「回復困難な損害」で足りることとされた。
2審査庁は、「本案について理由がないとみえるとき」には、執行停止をしないことができる。
3処分庁の上級行政庁以外の審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てまたは職権に基づく執行停止をすることができる。
4処分の執行の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない。
5処分庁の上級庁である審査庁は、審査請求人の申立てによることなく職権により執行停止をすることは許されない。
解答 4
テキストP222~228
1 誤
この問題のポイントは、「~平成16年の法改正により、「回復困難な損害」で足りることとされた。」の部分です。
回復困難な損害」がなければ執行停止されないなら、回復困難な損害というのはめったにあることではないので、事実上執行停止は絵に描いた餅で執行不停止の原則が貫かれてしまうことになります。
これでは、国民の権利・自由を不当に不利益にさえることとなり、個人の人権保障の観点から妥当でありません。
そこで、平成16年の行政事件訴訟法改正により「重大な損害」で足りるとされました。
これに伴い、行政不服審査法でも「重大な損害」となりました。
申立人の権利利益の救済の幅を広げて、要件を緩和したのです。
要するに日本では年々人権意識が高まってきているので、個人の人権保障を守る方向で考えれば、正解できますね。
そもそも「重大な損害」より程度が大きい「回復困難な損害」で足りるという日本語もおかしいですから、簡単な肢だと思います。
2 正
この問題のポイントは、「審査庁は、「本案について理由がないとみえるとき」には、執行停止をしない~」の部分です。
肢1で見たとおり、個人の人権保障の観点から、重大な損害を避けるために緊急の必要がある場合は、審査庁には執行の停止義務があります。
しかし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき又は本案について理由がないとみえるとき、さらに例外的に執行停止の必要はないのです(25条4項)。
この点は、憲法における 人権 VS 公共の福祉 の関係に似ていますね。
審査庁が本案について理由がないとみえるならば、請求が棄却されることになりますから(45条2項)、執行停止する必要がないですね。
3 誤
処分庁の上級行政庁以外の審査庁は、処分庁に対して一般的指揮監督権を有しません。
上司と部下の関係にないからです。
そのため、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てに基づく執行停止はできますが、職権に基づく執行停止をすることはできないのです(25条3項)。
4 誤
処分の執行の停止ではなく処分の効力の停止です。
処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができないとされています。
処分の効力は、最も包括的なものであるため、処分の効力が停止されれば、処分の効力の実行である処分の執行や手続の続行もすることができなくなります。
そのため、より緩やかな手段があるならば、処分の効力の停止はできるだけ避けるべきであるとされているのです。
5 誤
この問題のポイントは、「処分庁の上級庁である審査庁は、~職権により執行停止をすることは許されない。」の部分です。
処分庁の上級行政庁である審査庁は、処分庁に対して一般的指揮監督権を有するから、職権に基づく執行停止も一般的指揮権の発動として正当化されるのです。