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行政法 国家賠償法 (H26-19)


国家賠償法に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、誤っているものの組合せはどれか。


ア 1条1項に基づく国家賠償請求については、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではないから、行政機関を相手方とする訴えは不適法であり、公務員個人を相手方とする請求には理由がない。

イ 都道府県が児童福祉法に基づいて要保護児童を国又は公共団体以外の者の設置運営する児童養護施設に入所させたところ、当該施設の被用者がその入所児童に損害を加えたため、当該被用者の行為が都道府県の公権力の行使に当たるとして都道府県が被害者に対して1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合であっても、被用者個人は、民法709条に基づく損害賠償責任を負わないが、施設を運営する使用者は、同法715条に基づく損害賠償責任を負う。

ウ 法律の規定上当該営造物の設置をなしうることが認められている国が、自らこれを設置するにかえて、特定の地方公共団体に対しその設置を認めたうえ、その営造物の設置費用につき当該地方公共団体の負担額と同等もしくはこれに近い経済的な補助を供与する反面、その地方公共団体に対し法律上当該営造物につき危険防止の措置を請求しうる立場にあるときには、国は、3条1項所定の設置費用の負担者に含まれる。

エ 市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に損害を与えた場合において、当該教諭の給料等を負担する都道府県が1条1項、3条1項に従い上記生徒に対して損害を賠償したときは、当該都道府県は、賠償した損害につき、3条2項に基づき当該中学校を設置する市町村に対して求償することはできない。

オ 公務員の定期健康診断におけるレントゲン写真による検診及びその結果の報告は、医師が専らその専門的技術及び知識経験を用いて行う行為であって、医師の一般的診断行為と異なるところはないから、国の機関の嘱託に基づいて保健所勤務の医師により行われた診断であっても、特段の事由のない限り、それ自体としては公権力の行使たる性質を有するものではない。


1 ア・エ

2 ア・オ

3 イ・ウ

4 イ・エ

5 ウ・オ


解答 4


肢ア  正

国が公務員に対して求償できる場合があることから、国家賠償は、代位責任です。したがって、公務員個人もその責任を負うものではないのです。

(最判昭和30年4月19日)

「上告人等の損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すベきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。従って県知事を相手方とする訴は不適法であり、また県知事個人、農地部長個人を相手方とする請求は理由がないことに帰する。」

肢イ  誤

当該被用者の行為が都道府県の公権力の行使に当たるとして都道府県が被害者に対して1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合であれば、民法上の損害賠償責は負いません。国家賠償責任が認められるのであれが、それで十分だからです。

(最判平成19年1月25日)

「国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わない」

肢ウ  正  肢エ  誤

第3条

1 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。

2 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。

条文からわかる通り、営造物の設置・管理する者と営造物の設置・管理の費用を負担する者とが異なる場合に、どちらか一方にしか損害賠償請求できないとすると、原告が被告を誤ってしまった場合、救済の機会を失う恐れがあります。

 そのため、営造物の設置・管理する者と営造物の設置・管理の費用を負担する者の両方に損害賠償請求できるようにしてあるのです。これも被害者の保護を厚くしようという趣旨です。

法律の規定上当該営造物の設置をなしうることが認められている国が、自らこれを設置するにかえて、その営造物の設置費用につき補助を供与する場合、国は費用負担者になります。そうした方が被害者の保護を厚くしようという趣旨に合致するからです。

(最判昭和50年11月28日)

「法律の規定上当該営造物の設置をなしうることが認められている国が、自らこれを設置するにかえて、特定の地方公共団体に対しその設置を認めたうえ、右営造物の設置費用につき当該地方公共団体の負担額と同等もしくはこれに近い経済的な補助を供与する反面、右地方公共団体に対し法律上当該営造物につき危険防止の措置を請求しうる立場にあるときには、国は、同項所定の設置費用の負担者に含まれるものというべきであり、右の補助が地方財政法一六条所定の補助金の交付に該当するものであることは、直ちに右の理を左右するものではないと解すべきである。」

(最判平成21年10月23日)

「法令上、損害を賠償するための費用をその事務を行うための経費として負担すべきものとされている者が、同項にいう内部関係でその損害を賠償する責任ある者に当たると解する」とし、公立中学校の教諭の体罰によって生徒が受けた損害を都道府県が賠償した場合は、学校教育法及び地方財政法を根拠に当該中学校を設置する市町村に対してその全額を求償することができる。」

肢オ  正

検診を含めた医療行為は、国公立病院における医療行為も、民間病院で行う医療行為と業務の性質が同じであり、私立病院との公平の観点より 原則として国家賠償法1条にいう「公権力の行使」には当たらないとされています。

そのため、例えば、国公立病院の医療過誤・医療事故については、国家賠償法を適用するのではなく、民法の不法行為責任や債務不履行責任により処理されているのです。

このように、原則として、医師などによる医療行為は「公権力の行使」の対象外であるということを押えてください。

(最判昭和57年4月1日)

『レントゲン写真による検診及びその結果の報告は、医師が専らその専門的技術及び知識経験を用いて行う行為であって、医師の一般的診断行為と異なるところはないから、特段の事由のない限り、それ自体としては公権力の行使たる性質を有するものではないというべきところ・・・』




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