行政法 国家賠償法 (H27-19)
国家賠償法1条1項に関する最高裁判所の判例に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 非番の警察官が、もっぱら自己の利をはかる目的で、職務を装って通行人から金品を奪おうとし、ついには、同人を撃って死亡させるに至った場合、当該警察官は主観的に権限行使の意思をもってしたわけではないから、国家賠償法1条1項の適用は否定される。
2 パトカーに追跡されたため赤信号を無視して交差点に進入した逃走車両に無関係の第三者が衝突され、その事故により当該第三者が身体に損害を被った場合であったとしても、警察官の追跡行為に必要性があり、追跡の方法も不相当といえない状況においては、当該追跡行為に国家賠償法1条1項の違法性は認められない。
3 飲食店の中でナイフで人を脅していた者が警察署まで連れてこられた後、帰宅途中に所持していたナイフで他人の身体・生命に危害を加えた場合、対応した警察官が当該ナイフを提出させて一時保管の措置をとるべき状況に至っていたとしても、当該措置には裁量の余地が認められるから、かかる措置をとらなかったことにつき国家賠償法1条1項の違法性は認められない。
4 旧陸軍の砲弾類が海浜に打ち上げられ、たき火の最中に爆発して人身事故が生じた場合、警察官は警察官職務執行法上の権限を適切に行使しその回収等の措置を講じて人身事故の発生を防止すべき状況に至っていたとしても、当該措置には裁量の余地が認められるから、かかる措置をとらなかったことにつき国家賠償法1条1項の違法性は認められない。
5 都道府県警察の警察官が交通犯罪の捜査を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を与えた場合、犯罪の捜査が司法警察権限の行使であることにかんがみれば、国家賠償法1条1項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは原則として司法権の帰属する国であり、都道府県はその責めを負うものではない。
解答 2
国家賠償法の違法性の判例についての問題です。違法性については考え方が公権力発動要件欠如説と職務行為基準説の2通りあります。判例はどちらの考え方もとっていますが、主に職務行為基準説をとっています。この問題を通じて押えておきましょう。
解答 2 テキストP346~
肢1 誤
「その職務を行うについて」は、民法の使用者責任(715条)の「事業の執行について」と同じような解釈をとります。
つまり、国家賠償は、公務員の違法行為によって、いわれなき人権侵害を救済するものですから、公務員の違法行為の有無は、被害者を基準に判断すべきなのです。
ですから、公務員の主観は問わず、公務員の行為が、客観的にみて職務行為の外形を備えているかどうかで判断すべきと解されています。
本問について、当該警察官が主観的に権限行使の意思をもってしたかどうかは関係なく、職務行為を外形に判断すると、職務を装っていた以上、被害者からは、職務行為だとみえることから違法となるのです。
肢2 正
上記の通り、違法性については考え方が公権力発動要件欠如説と職務行為基準説の2通りあります。
公権力発動要件欠如説は、国賠法上の違法性を取消訴訟等の違法と同様に考え(違法性同一説)、当該行為について公権力の発動要件を欠くことを違法と理解します。
職務行為基準説は、国賠法上の違法性を取消訴訟等の違法性とは異なるものと考え(違法性相対説)、職務上尽くすべき注意を怠ることを違法性と理解します。
公権力発動要件欠如説においては、違法性と過失は別個の判断になりますが、職務行為基準説によれば違法性の中に過失を取り込んで判断することとなります。
警察官の追跡行為に必要性があり、追跡の方法も不相当といえない状況であれば、警察官が、職務上尽くすべき注意を怠ったとはいえないのです。
肢3 誤
対応した警察官が当該ナイフを提出させて一時保管の措置をとるべき状況に至っていたにも関わらずこのような措置をとらなかったことから損害が生じたので、警察官が、職務上尽くすべき注意を怠ったといえるのです。
肢4 誤
警察官は警察官職務執行法上の権限を適切に行使しその回収等の措置を講じて人身事故の発生を防止すべき状況に至っていたにも関わらず、このような措置をとらなかったことから損害が生じたので、警察官が、職務上尽くすべき注意を怠ったといえるのです。
肢5 誤
最判昭和54年7月10日からの出題です。
『都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えた場合において国家賠償法一条一項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うものではない、と解するのが相当である。けだし、警察法及び地方自治法は、都道府県に都道府県警察を置き、警察の管理及び運営に関することを都道府県の処理すべき事務と定めている(警察法三六条一項、地方自治法二条六項二号等参照)ものと解されるから、都道府県警察の警察官が警察の責務の範囲に属する交通犯罪の捜査を行うこと(警察法二条一項参照)は、検察官が自ら行う犯罪の捜査の補助に係るものであるとき(刑訴法一九三条三項参照)のような例外的な場合を除いて、当該都道府県の公権力の行使にほかならないものとみるべきであるからである。』