商法・会社法 (H24-36)
商人間において、その双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、当事者の別段の意思表示がない限り、債権者は一定の要件の下で、留置権(いわゆる商人間の留置権)を行使することができる。この「一定の要件」に関する次の記述のうち、商法の規定に照らし、正しいものはどれか。
1 債権が留置の目的物に関して生じたものではなく、かつ、目的物が債務者との間における商行為によらないで債権者の占有に属した物であってもよいが、目的物が債務者所有の物であることを要する。
2 留置の目的物が債務者との間における商行為によらないで債権者の占有に属した物であってもよいが、債権が目的物に関して生じたものであり、かつ、目的物が債務者所有の物であることを要する。
3 債権が留置の目的物に関して生じたものではなく、かつ、目的物が債務者所有の物でなくてもよいが、目的物が債務者との間における商行為によって債権者の占有に属した物であることを要する。
4 債権が留置の目的物に関して生じたものでなくてもよいが、目的物が債務者との間における商行為によって債権者の占有に属した物であり、かつ、目的物が債務者所有の物であることを要する。
5 留置の目的物が債務者所有の物でなくてもよいが、債権が目的物に関して生じたものであり、かつ、目的物が債務者との間における商行為によって債権者の占有に属した物であることを要する。
解答 4
(商人間の留置権)
第521条
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。
商事留置権が適用されるのは「当事者の一方のため」ではなく、「商人間においてその双方のため」に商行為となる行為です(商法第521条)。
商取引においては商人間で継続的関係が生じ、かつ信用取引が通常なので、このような実情に適合させるために商人間においては商事留置権が認められているのです。
なお、商事留置権は、民法の留置権(民法第295条)と異なり、留置物と被担保債権の間に牽連性が要求されていません。
例えば、債権者Aが2万円を貸す代わりに債務者Bのダイヤの指輪を預かっていた場合、債務者がお金を返すまでは、そのダイヤの指輪を留置することができます。
ところが、その後、同じAB間において、また1万円の貸し借りがあり、今度は、金のネックレスを預けました。この場合、最初の2万円とダイヤの指輪、次の1万円と金のネックレスでは、別個独立の債権債務にあるので、2万円の支払がないことに対して、金のネックレスを留置することはできません。このような関係を牽連性といいます。
ところが商取引においては、日常に頻繁に取引がなされているので、このような牽連性を無視して、ある債務に対して、預かっているものならなんでも担保として留置できるのです。そういう意味で、債権債務関係が民法よりも強化されているのです。
以上の通り、問題文の「一定の要件」とは、①商人間においてその双方のために商行為によって生じた債権であること、②弁済期にあること、③自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券であること④留置物と被担保債権の間に牽連性が要求されていないことです。
これらを全て満たすのは、肢4となります。
肢1は、「目的物が債務者との間における商行為によらないで」の部分から①の要件を欠いています。
肢2および肢5は、「債権が目的物に関して生じたものであり」の部分から④の要件を欠いています。
肢3は、「目的物が債務者所有の物でなくてもよい」の部分から③の要件を欠いています。
特に商事留置権が、民法の留置権(民法第295条)と異なり、留置物と被担保債権の間に牽連性が要求されていない点はしっかり押えておいて下さい。