行政法 地方自治法 (H27-23)
条例・規則に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、刑罰を科す旨の規定を設けることができるが、法律の委任に基づかない条例を定める場合には、設けることができない。
2 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、刑罰を科す旨の規定を設けることができるが、行政上の強制執行が許される場合には、設けることができない。
3 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、刑罰を科す旨の規定を設けることができるが、刑罰の種類は、罰金及び科料に限られ、懲役や禁鋼は、設けることができない。
4 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、刑罰を科す旨の規定を設けることができるが、過料を科す旨の規定は、設けることができない。
5 普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、過料を科す旨の規定を設けることはできるが、刑罰を科す旨の規定を設けることはできない。
解答 5
条例に関する基本的な問題ですから是非とも正解したい問題です。
テキストP415~
肢1 誤 肢3 誤 肢4 誤
肢1は、少し誤解を受ける表現があるので要注意です。
「地方自治法14条3項
普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。」
法律の範囲内であれば条例によっても刑罰等を定めることができます。 条文からも明らかであるように、法律の具体化として条例が置かれる場合もあるのです。
財産権の行使の場合と異なり、条例で罰則の規定を定める場合は法律による委任が必要です。罰則は人身の自由や意思を奪うものだからです。
ただし、個別具体的な委任までは必要ないとされています。
法律による授権が相当程度に具体的であり、限定されていればよいのです。
14条3項が条例に対する一般的な委任規定とされています。
ですから、この規定がある以上、法律の個別具体的な委任がなくても条例で刑罰を定めることができるということです。
肢1の「法律の委任に基づかない」というのは、法律の個別具体的な委任に基づかないという意味で捉えてください。
上記の地方自治法14条3項からも明らかな通り、懲役、禁固、過料も条例で定めることができますので、肢3では懲役や禁鋼、肢4では過料の部分が誤りです。
肢2 誤
例えば、行政代執行の場合は、代替的な作為義務であり、後に費用を徴収する点で直接強制よりも権利侵害の程度が弱いため、行政目的の実現のため条例でも制定できると定められています。
行政代執行法は一般法であり、その行使のための要件と手続きが厳格ですから、この法律の範囲内で条例が制定されるならば、許容されると考えられるのです。
行政代執行の場合は、厳格な要件の下、例外的に条例でも定めることができると押さえておきましょう。
行政刑罰は、刑事法上の刑罰の一種であるのに対して、行政上の強制執行は、将来の強制執行であるため、過去の制裁である行政刑罰とは目的が異なるために併用することができるのです。
ですから、行政上の強制執行と行政刑罰を併用することもでき、二重の危険の禁止(憲法39条)とならないとされています。
二重の危険の禁止とは、同一の犯罪について、二重に処罰されるおそれのある状況にさらすことはできないということです。つまり、同一の犯罪について何度も刑事責任を問われないということです。
肢5 正
『地方自治法15条2項
普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。 』
長の制定する規則(15条1項)は、原則として、条例とは別の対等なものです。
長も住民から直接選挙されているので、独自に規則制定権を有するのです。この規則を制定するには条例と同様に法律による委任は不要です。
そして、長は規則で過料という秩序罰を科すこともできます。
秩序罰とは、行政上の秩序維持に違反する恐れがある義務違反に対して過料を課すものですから、いわゆる犯罪ではなく、行政刑罰に比べて社会的非難の軽いものに対する行政罰です。
ただし、長は行政刑罰を規則で科すことはできません。行政刑罰は、行政上の義務違反を取り締まる目的を持っている点で、刑事罰とは異なっているのですが、行政刑罰も、刑罰である以上、いわゆる犯罪であり、刑法上の刑罰と同様に刑事訴訟法の手続きを経て課されるものです。
刑罰は人権侵害の最たるものですから、条例のように民主的な手続きを経なければ、刑罰を定めることはできないのです。