民法 物権 (H21-29)
Aに対して債務を負うBは、Aのために、自己が所有する土地に抵当権を設定した(他に抵当権者は存在しない)。この場合における抵当権の消滅に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア Aの抵当権が根抵当権である場合において、Bが破産手続開始の決定を受けたときは、被担保債権は確定して満足し、根抵当権は確定的に消滅する。
イ Aの抵当権が根抵当権である場合において、元本が確定した後に、Bから土地の所有権を取得したCが、極度額に相当する金額をAに支払い、根抵当権の消滅請求をしたときは、確定した被担保債権の額が極度額を超えていたとしても、Aの根抵当権は、確定的に消滅する。
ウ BがAに対し、残存元本に加えて、最後の2年分の利息および遅延損害金を支払った場合には、Aの抵当権は、確定的に消滅する。
エ 第三者Cが、土地の所有権を時効によって取得した場合には、Aの抵当権は、確定的に消滅する。
オ 第三者Cが、BのAに対する債務の全額を弁済し、その弁済と同時にAの承諾を得ていた場合には、CはAに代位することができるが、抵当権は、確定的に消滅する。
1 ア・ウ
2 ア・エ
3 イ・エ
4 イ・オ
5 ウ・オ
解答 3
抵当権の消滅について、抵当権と根抵当権について横断的に問う問題です。
ア 誤
債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたときは、元本は確定する(398条の20第1項4号)。
しかし、単に元本が確定するだけであり、元本が確定された根抵当権として存続する。
イ 正
元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、その根抵当不動産の所有権等を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる(398条の22第1項)。
したがって、第三取得者Cは、極度額に相当する金額をAに支払えば、Aの根抵当権は確定的に消滅する。
ウ 誤
主たる債務者であるBは、元本のほか全ての利息および遅延損害金等を支払わなければ、債務が消滅しないので抵当権も消滅しない(大判昭和15年9月28日)。
なお、375条本文では「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、原則としてその満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。」とあるが、これはあくまでも、後順位抵当権者等の利益を考慮して、抵当権者の優先弁済権を限定したものであるため、これらに該当する分を債務者が支払えば抵当権が消滅するわけではない。
エ 正
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する(397条)。
したがって、Aの抵当権は、確定的に消滅する。
オ 誤
民法第499条1項では、「債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。」とあります。
また、民法第501条前段では「債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。」とあります。
したがって、代位する求償債権に随伴して移転する結果、抵当権は消滅しないのです。
条文ではこのようになりますが、難しければ、今は代位というところはあまり考えずに、この場合の弁済を、単純な債権譲渡と読み替えるとわかりやすいと思います。
弁済するのも売買するのも被担保債権額をAに支払う点は共通するからです。
つまり、第三者CにAがその被担保債権を売買により譲渡したと考えれば、抵当権には随伴性があるので、Aの抵当権もCに移転することになります。
ですから、抵当権は消滅しないと考えることもできるのです。このように考えても結論は一緒ですね。わからないければ知っている知識に置き換えて理解することも重要なのです。