民法 債権(H10-31)
民法上の請負契約に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 建物新築の請負契約に当たり、注文者が材料の全部を供給した場合には、特約の有無 にかかわらず、注文者に所有権が帰属する。
2 請負契約に下請負契約禁止の特約がある場合、これに反してなした下請負契約は当然 に無効となる。
3 請負契約の履行に当たり生じた瑕疵の補修に代わる注文者の損害賠償債権と請負人の 報酬債権は、相殺することができる。
4 請負契約に基づく請負人の担保責任は、目的物の引渡し後原則として1年で消滅する が、石造りの土地の工作物については5年で消滅する。
5 請負人が約定期日までに仕事を完成できず、そのために目的物の引渡しができない場 合でも、報酬の提供がなければ、履行遅滞とならない。
解答 3
1 誤
請負契約における物の所有権の帰属について、特約が存在するときはそれによる。特約が存在しないときは、材料を負担したのが注文者なのか請負人なのかで区別する。注文者が材料を負担したのなら、建物の完成と同時に注文者に所有権が帰属する。請負人が材料を負担した場合については請負人に所有権が帰属する。そして、引渡しによって注文者に所有権が移転する。
2 誤
請負契約の場合、仕事の完成が目的なので、請負人は特約のない限り履行代行者(下請負人)を用いて仕事の完成にあたらせてもよい。
そのため、請負人と注文者の間に下請負禁止の特約があっても、請負人と第三者間に成立した下請負契約の効力には、なんらの影響も及ぼさない(大判明治45年3月16日)。
ただし、この場合、特約に違反することになるので請負人が注文者に対して債務不履行責任を負うことにはなる。
このことと下請負契約の効力が無効になるかどうかとは別の話である。
3 正
請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵補修に代わる損害賠償債権とを相殺することは可能である(最判昭和53年9月21日)。
4 誤
建物その他の土地の工作物以外の請負人の担保責任は、仕事の目的物を引き渡した時から1年以内である。
これに対して、建物その他の土地の工作物は、その瑕疵について、引渡しの後、木造等の一般工作物については5年間、石造、金属造などの堅固工作物については10年間の担保責任を負う(638条1項)。
5 誤
目的物の引渡しと報酬の支払いは同時履行の関係にあるが、請負人の仕事完成義務は先履行となる(632条)。
そのため、請負人が、その責めに帰すべき事由により、約定の期日までに目的物を完成できず、そのために引き渡せなかったときは、債務不履行となる。
そのため、注文者が約定の期日に報酬を提供しないことを理由に、履行遅滞の責任を免れることはできない。