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民法 物権 (H26-30)


物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはどれか。


1 対抗要件を備えた抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた後であっても、第三債務者がその譲受人に対して弁済する前であれば、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。

2 対抗要件を備えた抵当権者が、物上代位権の行使として目的債権を差し押さえた場合、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたとしても、それが抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、当該第三債務者は、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。

3 動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、動産の買主が第三取得者に対して有する転売代金債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた場合であっても、当該動産の元来の売主は、第三取得者がその譲受人に転売代金を弁済していない限り、当該転売代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。

4 動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。

5 抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができるが、同不動産が転貸された場合は、原則として、賃借人が転借人に対して取得した転貸賃料債権を物上代位の目的とすることはできない。




解答 3



物上代位に関する判例からの出題だったので少し難しかったかもしれません。物上代位の原則に戻って考えれば何とか正解できたのではないでしょうか。


テキストP386~393


肢1 正

本問は抵当権者と債権譲渡で対抗要件を備えた債権者とではどちらが優先的に賃料から弁済を受けられるかという判例を題材とした事例です。

もし、抵当権者が差押える前に、債権譲渡で対抗要件を備えた債権者を勝たせるならば、債務者が他の債権者に債権を譲渡すれば、債権者の物上代位を阻止することができてしまいます。

この場合、「払渡し又は引渡し」に債権譲渡は含まれることになります。

つまり、債権譲渡されてしまえば、もはや物上代位できないことになります。

これでは、抵当権者よりも一般債権者の方が優先弁済を受けることになり抵当権者にとって不利益となります。

また、先に抵当権の登記があれば、公示によって明確なので抵当権者が勝つことにした方が公平なのです。

逆に、いつなされるか明白でない差押と債権譲渡の通知の前後で優劣を決めるとすると、賃借人が、差押をした債権者と債権譲渡の譲受人のどちらに支払えばよいかわからなくなります。

ですから、抵当権の登記>債権譲渡の通知・承諾と判断したのです。

つまり、この「払渡し又は引渡し」に債権譲渡は含まれないということです。

ですから、債権者は、譲受人に譲渡された債権に対して、第三債務者が支払う前に抵当権の物上代位により、優先弁済を受けることができるのです。

肢2 正

抵当権と相殺との優劣関係を判示した最判平13年3月13日からの出題です。

『抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である』

ポイントは2つです。

まず、自動債権を取得したのが、抵当権設定登記の後であるという点です。登記後であれば公示によって相殺権者もわかるだろうということです。

2つ目としては、「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後」であるということです。

抵当権設定登記+差し押さえがあれば、相殺できないということです。

逆に言うと、これ以外は相殺できると言うことです。

つまり、抵当権設定登記前に自動債権を取得していたり、登記後の取得であっても差し押さえ前の相殺ならばできるということです。

この判例の射程範囲を間違えないようにしましょう。

肢3 誤

例えば、甲から乙に動産が売却され、先に動産が引き渡されている場合、甲は乙に対して、動産売買における代金債権を被担保債権として、その動産の上に先取特権を有しています。

 つまり、もし、弁済されなければ、この代金債権については、その動産を実行して単なる一般債権者よりも優先的に弁済を受けられるのです。

 ところが、乙が第三者丙にその動産を売却して引渡した場合は、甲は、もはやその動産を実行することができなくなります(333条)。動産の先取特権には公示力がなく第三者丙を保護する必要があるからです。

 そのため、甲は、乙の丙に対する代金債権を物上代位によって差押えて債権を回収することになるのです。

 もっとも、この乙の丙に対する代金債権を丁に売却してしまった場合、常に物上代位によって債権回収することができるとすると丁が不利益となります。

 そこで丁が対抗要件を備えていた場合は、その前に差し押さえしないと甲は物上代位できないのです。抵当権の場合と異なる結論なので注意が必要です。動産の先取特権には公示力がなく第三者丙を保護する必要があるからです。以下判例を参照してください。

最判平17年2月22日

『動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。』

肢4 正

肢3の解説のとおり、動産の先取特権は、売買の目的物が特定の第三者に売却されると、先取特権が消滅し追及力を失います(333条)。

そのため、肢3の事例のとおり、甲は、乙の丙に対する代金債権を物上代位によって差押えて債権を回収することになるのです。

もっとも、請負代金は、労務の対価などが含まれているので、当然に売買代金と同視することができません。

ですから、乙の丙に対する債権が売買代金債権ではなく、請負代金債権であった場合は、原則として物上代位することはできません。

しかし、本問のとおり、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとされています(最決平成10年12月18日)。

乙の丙に対する請負代金債権が売買代金債権と同視できるのであれば、請負代金債権に物上代位してもよいということです。

例えば、請負代金の一部に目的物の代金が含まれており明確であるならば、その部分については代金債権と同じなので物上代位できるのです。

具体的に言うと、BがCから、A所有の動産を購入した上で、その動産に請負工事を施してCに引き渡すという契約があった場合、Bが倒産して、AがBに対して代金債権を行使できない場合、Aは、BのCに対する請負代金債権に物上代位して債権を回収できるということです。

肢5 正

本問の場合、賃貸人と賃借人間の賃料が適正に支払われているならば、債権者は、賃料に物上代位すればよく、転借料にまで物上代位する必要はありません。

また、仮に転借料にまで物上代位した場合、賃借人に転借料が支払われる前に債権者が差し押さえるわけですから、賃借人には転借料が入ってきません。

関係の無い賃借人が賃貸人の債務を代わりに支払っている関係になり、賃借人にとって不利益となります。

原賃料と転借料にもあまり差がなければ、債権者が物上代位する実益が無いのです。

したがって、原則として、債権者は転借料に物上代位することはできません。

よって、本問は正しいです。

なお、賃借料が転借料に比べて著しく安価な場合は、乱用的な賃貸借契約といえます。

濫用的に賃貸借契約を締結している場合は、例外的に転借料にも物上代位できるのです。

このような濫用的な賃借人を排除するためにも物上代位を認めた事例(最判H12・4・14)があるので、頭の片隅においておきましょう。




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